環境保全先進国ニュージーランドに学ぶ、環境問題への取り組み|circu.(サーキュ)

2021.09.06

環境保全先進国ニュージーランドに学ぶ、環境問題への取り組み

ニュージーランドが「環境保全先進国」と呼ばれる背景には、ニュージーランドが行っている先進的な取り組みがあります。しかし、環境保全先進国であっても、国の主力産業である酪農による環境汚染という問題を抱えています。そこで、酪農による問題への対策を知り、日本に住む私たちができることを考えていきましょう。

ニュージーランドが「環境保全先進国」と呼ばれる理由

ニュージーランドは、世界の多くの国の中で「環境保全先進国」と呼ばれます。

その理由は主に、4つあります。


1. 再生可能エネルギーを活用したエネルギー政策
2. ゴミをなくすための取り組み
3. 環境保護に関する教育の実施
4. 生態系の保護

これらを詳しく紹介します。

再生可能エネルギーを活用したエネルギー政策

2018年時点で、ニュージーランドは再生可能エネルギー(以下、再エネ)による発電割合が、総発電量の約84%を達成しています。(ビジネス・イノベーション・雇用省発表)

日本における同じ年の再エネによる発電割合が17.4%であったことと比較すると、ニュージーランドがとても先進的であることが、すぐにわかりますよね。

ニュージーランド政府は、2025年には再エネによる発電割合を90%にする目標を掲げており、再エネ活用の先陣を切っていると言えます。

ゴミをなくすための取り組み

2018年、ニュージーランド最大の都市であるオークランド市がゴミの排出量をゼロにする「2040年までにゼロ・ウェイストの街を目指す」と宣言しました。

オーストラリアの首都キャンベラが、1996年に世界に先駆けて「ゼロ・ウェイスト宣言」をおこなったことで、この考えが他の都市にも広まり、オークランドも続く形となりました。

ゴミが出る根本原因をなくすほか、出てしまったゴミは焼却や埋め立てではなくリサイクルをする、堆肥として利用するなど有効活用し、ゴミをゼロにすることを意味します。

オークランドではゼロ・ウェイスト達成に向けた取り組みとして、オークランドの全家庭にコンポストと呼ばれる生ゴミ専用のゴミ箱を配布し、生ゴミの有効活用を促進しています。

ちなみに日本では、オークランドが宣言をおこなうより前の2003年に徳島県上勝町が、自治体として日本で初めて「ゼロ・ウェイスト宣言」をおこなっています。

環境保護に関する教育の実施

2001年「人は自然環境の一部」というニュージーランドの先住民族であるマオリ族による考え方にもとづく「Enviroschool(エンバイロスクール)」が設立されました。

環境教育に重点をおいている学校のことで、「エンバイロスクールプログラム」と呼ばれる体験型の環境教育プログラムが幼稚園~高校教育のカリキュラムの一部として組み込まれています。

生徒たちはこのカリキュラムをもとに、ゴミや環境、水資源のことなど自然環境に関する教育を受けます。

学校生活においても、校舎内にコンポストが設置されていて生ゴミの回収をおこない、学校活動として植樹活動をおこなった際の肥料にするなど、体験を通して体系的に環境について学びます。

生態系の保護

ニュージーランドでは生態系保護のため、「Predator Free 2050(プレデター フリー2050)」という取り組みをおこなっています。

「Predator Free 2050」は、ニュージーランドの経済や一次産業を脅かす原因となる捕食動物を駆逐する活動です。

捕食される動物が増えてしまうことで生態系が崩れ、自然環境が破壊されることを回避するため、こうした取り組みがおこなわれています。

ニュージーランドが抱える 酪農による環境問題

これほど環境に対して前向きに取り組んでいるニュージーランドでも、現在、国全体で環境に関する大きな問題を抱えています。それは、酪農による環境問題です。

ニュージーランドの2020年主要貿易品目を見ると、乳製品が27.2%を占めていて他の輸出品目と比較しても圧倒的な割合です。

ニュージーランドを支える酪農による環境問題の解決は、酪農国家として欠かせません。また、持続可能な酪農の実現のため、他国を牽引して問題解決することが求められています。そこで、具体的にどんな問題が起きているのか紹介します。

水質問題

酪農問題としてまず挙げられるのが、河川の水質汚濁です。水が汚れる原因のひとつは、家畜の排泄物です。具体的には、排泄物による水質汚濁には2通りが存在します。

家畜の排泄物は、主に堆肥として再利用されます。しかし堆肥に変える量にも限界があるため、処理しきれなかったものは畑に積んで置かれたり、地中に埋められたりします。

そこで、畑に積まれた堆肥が雨や風で河川に直接流れ込んで水質汚濁に繋がる場合と、堆肥が埋められた土壌に混ざる、または堆肥に含まれた窒素が土壌に浸透するなどした結果として水質汚濁に繋がる場合があります。

ほかにも、家畜が河川に入り排泄をすることで、水質汚濁に繋がることもあります。

温室効果ガス問題

酪農業界で排出される温室効果ガスは、全体の約4割を占めると言われています。家畜を育てるための穀物を育てる際に排出される温室効果ガスも含まれていて、インパクトのある大きな数字です。

そのほか、家畜のゲップが、温室効果ガスの要素であるメタンガスを多く排出しているとも言われています。

年々深刻化する地球温暖化への対策として、地球温暖化の削減に向けた取り組みの加速が叫ばれるなか、酪農における温室効果ガスの問題は大きな課題となっています。

酪農問題解決に向けた 自然保護への取り組み

酪農に関する2つの環境問題に対し、どのような取り組みがおこなわれているのでしょうか?それぞれ具体的に見ていきましょう。

水質改善

ニュージーランド政府は、1991年に「資源管理法(The Resource Management Act 1991)」で環境全般に関する規定をしています。

その中で、具体的な水質基準の数値目標や運用方法については、地方自治体がおこなうことと定めていますが、ニュージーランド環境省や地方自治体などは協力して共同出資をおこない、水質に関するデータの情報収集や提供をおこなっています。

また、政府は水質に関する最低基準として、2011年に制定された「淡水管理に関する全国方針声明書」を2017年に改正し、遊泳が可能な湖や河川の割合を2030年には80%、2040年には90%とすることを定めています。

さらに、生産者団体であるデイリーNZを中心に結成された酪農環境リーダーシップグループによって、「持続可能な酪農(通称:水協定)」が作成されました。

水質改善のための具体的な目標と、その達成度を可視化し情報を共有することで、正しい理解を広げ、活動を促進させています。

そして、ニュージーランドの乳業最大手である「フォンテラ」は、2017年に国内の水質改善のための資金提供をはじめとした協力をおこなうと発表。その後2020年度には、環境評価基準として重要視している水使用量の削減を実現しました。

業界最大手の企業が率先して環境改善に取り組むことは、業界全体のさらなる意識向上にもつながりますよね。

この取り組みは、乳製品の製造活動による温室効果ガスの削減、固形廃棄物量の削減にもおよび、いずれも2020年度に改善が実現されています。

温室効果ガス削減

温室効果ガスの削減目標について、パリ協定での合意をもとに、2050年までに1990年時点の温室効果ガス排出量に比べて50%削減することを目指していました。

しかし、2019年11月に可決された「気候変動対応修正法案(ゼロカーボン法案)」により、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにする枠組み(生物由来のメタンガスを除く)が定められています。

削減目標達成に向け、ビジネス・イノベーションおよび雇用省は牧畜温室効果ガス研究共同体の「メタンと亜酸化窒素の削減方法に関する研究」に対し補助をおこなっています。

一方、政府は2009年にメタンと亜酸化窒素以外の農場における温室効果ガスの削減方法の研究を行うための「ニュージーランド農業温室効果ガス研究センター」を2009年に設立。

そしてデイリーNZが主体となってフォンテラ社と連携し、2017年6月に「気候変動に向けたデイリー・アクション」を立ち上げ、メタンと亜酸化窒素に対処するための酪農業界の枠組みを提供しています。

私たちの購買行動を見直し 環境改善につなげよう

ニュージーランドは「環境保全先進国」と呼ばれますが、「環境保全」と「自然保護」という言葉には意味の違いがあります。

環境保全は、「人間のために自然を守る」。
自然保護は、「自然のために自然を守る」。

持続可能な社会の実現に向けて、私たちは環境保全の活動を加速させ、一歩踏み込んだ「自然保護」を目指す必要があります。

酪農による環境問題は、決して酪農を営む人たちだけの問題ではありません。
私たち消費者による、消費行動が問題の原因でもあります。

具体的には経済成長に伴う嗜好の変化によって、これまでより需要が大きく膨らみ、増産が必要となっている背景もあります。そのため、家畜数を増やしたり、家畜の食糧を多く育てることでさらなる環境問題の悪化につながっています。

こうした観点を踏まえると、乳製品の消費量を抑えることが私たち消費者にできることとなります。栄養面や酪農業界の経済を考えれば、消費そのものをなくすことはできません。

しかし、購入量あるいは購入頻度を減らすだけでも、少なからず環境改善につながるアクションになるのではないでしょうか。