2022.12.18
世界には、畜産業による温室効果ガスの排出や製造業による水質汚染など、私たちの社会活動に起因する環境へのさまざまな影響があります。農業でも同様に、農薬散布による土壌汚染をはじめ、環境への悪影響が存在します。
そこで今、持続可能な農業を目指して注目されているのが「循環型農業」です。この記事では、従来の農業によって懸念される環境問題、環境負荷を抑える循環型農業について解説します。
農業は、社会において食料供給という重要な役割を担っています。そのため、今後も安定した食料供給が出来るよう、化学物質が使われたりビニールハウス栽培が行われたりしています。しかし、食料供給のためのこうした対策は、環境に大きく4つの悪影響を及ぼします。ここでは、各問題について解説します。
化学肥料や農薬の過剰散布は、畑や田んぼの土壌汚染を引き起こします。土壌汚染とは、害虫駆除や作物の生育を助ける目的で散布する化学物質が土壌に浸透し、蓄積することです。土壌汚染により、作物の生育不良や人体への悪影響などが危惧されます。
土壌汚染の発生は、水質汚染へと繋がります。水質汚染は、有害物質が地下水を通じて河川に流れたり、有害物質を含んだ土が雨や風で河川に流れたりすることで発生します。水質汚染によって、水道水を飲めなくなる、魚や貝類などの海産物を食べられなくなる、といった問題が懸念されます。
土壌汚染・水質汚染が進むと、昆虫や魚などが生息出来なくなります。なかには、絶滅に至る生物も出てくるでしょう。作物が育たなくなるほか、魚貝類が獲れなくなり、食料不足へと発展する恐れもあります。
野菜や果物のなかには、ビニールハウスを活用して育てられるものがあります。ビニールハウスによって作物が冬の寒さや雪から守られるため、寒さに弱い作物でも、安定して出荷出来るメリットがあります。
しかし、ビニールハウス内を温めるためには、重油などの化石燃料を使います。化石燃料の使用によって二酸化炭素が排出され、その結果、温暖化を加速させる懸念があります。
農業による環境負荷を抑えて、持続可能な農業を実現しようと注目されているのが「循環型農業」です。循環型農業とは、化学肥料や農薬だけに頼らず、これまで廃棄していた物を肥料として使用することで資源を循環させる農業の形態です。
畜産・農業や家庭から出る廃棄物を肥料にするほか、作物の生育に合鴨や魚を活用するなど、自然に存在するものをうまく利用して農業を行います。なお、「資源循環型農業」「環境保全型農業」と記されることもあります。
農家が循環型農業を行うと、自然環境だけでなく、消費者や農家にとってもいくつかメリットがあります。ここでは、それぞれのメリットについて解説します。
循環型農業では化学肥料の代用品として、これまで廃棄していた作物、家畜の糞尿などを堆肥化して使用します。自然界に存在していたものを自然界に還元することになるため、土壌汚染の心配がありません。また同様に、水質汚染のリスクも軽減出来ます。
化学物質の使用をやめると土壌や河川の汚染がなくなり、生態系が守られます。生態系を保護することで、食料不足の問題も鈍化または回避出来るでしょう。
循環型農業では、これまで焼却処理していた廃棄作物や家畜の糞尿を再利用するため、ごみの焼却量を削減出来ます。すると、焼却時の温室効果ガス排出量も抑制され、その結果、温暖化を鈍化させることに繋がります。
健康に悪影響を及ぼす化学肥料や農薬の使用は、法律で禁じられています。また、残留農薬については、健康への影響は軽微であると言われますが、化学肥料や農薬を口にしていることで、病気の治療のために服用した薬との飲み合わせで過剰反応が起きたり、薬が効かなくなったりする恐れがあります。
しかし、化学物質の使用をやめることで、こうしたリスクを回避出来ます。また、農薬を散布する際に農作業者が農薬を吸入してしまうリスクも避けられます。
農家にとって、これまで肥料や農薬の購入費用がかかっていました。しかし、循環型農業では自然界に存在するものを再利用するため、肥料代を抑えられます。肥料代は作物の販売価格に反映されるため、肥料代の削減は消費者にとってもメリットとなるでしょう。
循環型農業を行う上でデメリットもあります。それは、従来の農業と比較して、時間とコストがかかることです。
これまで作物の生育効率を上げるために使用していた化学物質を使用しないため、作物の生産効率は一時的に下がります。また、循環型農業を始める際に新たな設備を必要とするため、設備導入費が必要となります。
農林水産省では現在、循環型農業の導入を促進するため、交付金の支給を行っています。
循環型農業では、具体的にどのような取り組みが行われているのでしょうか。ここでは、日本で行われている循環型農業の事例を紹介します。
これまで廃棄されていた、牛や豚、鶏などのフンを堆肥化して使用します。フンを肥料にするための施設や設備に新たなコストがかかりますが、従来かかっていた肥料の購入費は下げられます。また、土壌汚染・水質汚染のリスクも軽減出来ます。
日本で長年行われている農法です。収穫が終わった田んぼに、多数の合鴨を放ち、害虫や雑草を食べてもらいます。生き物を扱うため、取り扱いが課題となる一方で、除草効果や防虫効果、肥料効果などを得られます。また、化学肥料や農薬を不使用または削減して作物を育てられます。
「アクアポニックス」は、「水産養殖(Aquaculture=アクアカルチャー)」と「水耕栽培(Hydroponics=ハイドロポニクス)」を掛け合わせた造語です。養殖した魚や貝の糞尿を微生物に分解させ、作物の肥料にします。
新たな設備の導入費用が高いことや、専門知識を必要とすることなどが導入の課題となります。しかし、化学肥料や農薬を使用せずに済み、環境に優しい農法と言えます。
化学肥料や農薬には、丈夫な作物、美味しい作物を効率よく作れるというメリットがあります。そのため、使用することが全面的に悪いわけではありません。しかし、環境への影響にフォーカスすると、強い影響があると言えます。
環境により良い農業を支援する方法として考えられることは、購買行動を通じて循環型農業を行う農家を応援することです。
ただし、循環型農業で作られた野菜に、認証マークがついているわけではありません。スーパーで野菜を買う際に、一目でわかるわけではないのです。そのため、普段から循環型農業に関する情報にアンテナを張っておくことが大切でしょう。どこの自治体や農家でどんな取り組みが行われ、作物がどのように作られているのかを知ることが重要です。
そのほか、ビニールハウスの使用を抑えるため、出来る限り旬の野菜や果物を食べることも、私たちが環境のために出来ることではないでしょうか。
持続可能な農業の実現は、今後起こり得る食料不足の解決のためにも欠かせません。私たちひとりひとりに関わる問題と捉えて、出来ることを行っていきましょう。
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