かつてマーケティングは、「売るための手段」として経営の一部に位置づけられてきました。しかし今や、顧客理解や市場変化への対応力は、企業の根幹を支える要素となりつつあります。もはやマーケティングは「経営の核」として、不可欠な存在です。
一昔前のマスメディア全盛期と比べ、インターネット、SNS、そして生成AIの普及により、マーケティングは格段に複雑化しました。かつては「何を・どこに・どれだけ出すか」を決めれば、ある程度の成果が得られた時代でしたが、今では情報の流通経路、ユーザー行動、意思決定プロセスが多様化し、単純な施策では通用しません。
企業理念、組織体制、商品開発、販路戦略、PR、顧客対応などあらゆる活動を貫く軸がなければ、それぞれがバラバラに動き、やがて競争力を失います。だからこそ、マーケティングの視点こそが企業活動をつなぎ、成長を一貫して導く“戦略の中枢”となるのです。
本記事では、「経営 ≒ マーケティング」という視点に立ち、持続的成長を目指す中小企業にとって、なぜマーケティングが“切り拓く武器”となるのかを解説します。
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経営マーケティングとは
経営マーケティングとは、「顧客に選ばれ続ける仕組み」をつくるために、経営戦略と一体となって企業全体の意思決定を設計していく考え方です。
「マーケティング=販促」の時代は、とっくに終わりました。かつては「広告を出す」「キャンペーンを打つ」といった、売るための手段として扱われていましたが、現代ではその役割は大きく変わっています。
プロダクト開発、顧客対応、ブランド構築、人材戦略──マーケティングの視点が経営全体に広がっている今、もはや経営戦略とマーケティング戦略は切り離して考えることができなくなったのです。
さらに重要なのは、経営マーケティングが企業の数字にも深く関わっているという点です。例えば、顧客理解をもとに設計された商品やサービスは、LTV(顧客生涯価値)を高め、継続的な収益を生み出す土台になります。また、ブランド力が蓄積されることで、新規顧客の獲得コスト(CAC)を抑え、広告費に頼らない持続的な集客も実現できます。
つまり、売上や利益といった経営の根幹となる数字は、「どれだけ顧客に選ばれる設計がなされているか」によって変わってきます。マーケティングは、経営戦略の一部として機能すべき中枢の意思決定だと言えるでしょう。
経営マーケティングが中小企業にこそ必要な理由
大企業であれば、テレビCMや大規模な広告キャンペーンといった「量の戦略」によって、認知や集客を一気に拡大することができます。しかし、中小企業にとってはそうした施策を継続的に展開するのは現実的ではありません。
だからこそ必要なのが、限られたリソースでも成果を最大化するための“戦略的な設計”です。それが「経営マーケティング」です。中小企業にこそ求められる理由は、以下の3点と考えております。
多様な取り組みを、戦略の一本線でつなげるために
中小企業の経営においては、広告施策やSNS運用、営業活動、顧客対応、さらには人材採用や組織づくりに至るまで、実に多くの領域を同時に動かしていかなければなりません。それぞれに全力を注いでいるにもかかわらず、成果が思うように出ない。その要因のひとつが、「全体を貫く設計思想の欠如」にあります。
本来、集客から成約、そして事業成長へと至る一連のプロセスは、すべてが有機的につながって機能するべきものです。たとえば「誰に届けるのか」という顧客理解が定まらなければ、広告の訴求も、営業トークも、プロダクトの価値訴求もブレてしまう。逆に言えば、経営視点から一本筋の通った戦略があれば、個別の施策も自ずと精度が上がり、相乗的な成果が生まれます。
経営マーケティングとは、この“戦略の一本線”を全体に通すための思考であり、あらゆる打ち手を断片ではなく連動した仕組みとして機能させるための設計力です。情報や選択肢があふれる時代だからこそ、どのように価値を届け、どのように選ばれ続けるか。その問いに対する答えを、断片的な施策ではなく全体設計として描く力が、これからの中小企業には求められています。
断片的なマーケティングから脱却し、全社で届ける設計へ
いまやSNS、検索、比較サイト、口コミ、オウンドメディアなど、顧客は複数のチャネルを行き来しながら情報を集め、検討を重ねた上で購入に至ります。たとえば、SNSで商品を知り、検索で評判を調べ、ECサイトで比較し、最後に口コミで背中を押されて購入を決める──そんな行動は日常的に起きています。
このような環境では、個別の施策がバラバラに走っていては、情報が断片的に届き、顧客の意思決定を後押しするどころか、逆に迷わせてしまいます。
経営マーケティングは、すべての顧客接点を「つなげる」設計思想です。営業、広報、広告、カスタマーサポートといった全社の機能を横断して、顧客にとって自然で一貫した体験をつくる。中小企業こそ、組織の柔軟性を活かし、全社で届けるマーケティングを実現できるのです。
経営マーケティングを実践するための3つ要素
経営マーケティングを現場で機能させるには、「誰に・何を・どう届けるか」を明確にすること、「事業に関連するテーマやキーワードを絞り込むこと」、そして「中長期を見越した本質的なマーケティング活動に取り組むこと」が重要です。それぞれの要素について具体的に紹介します。
1.「誰に・何を・どう届けるか」を明確にする
マーケティング活動の出発点は、「誰に・何を・どう届けるか」を明確に言語化することです。言い換えれば、STP(セグメンテーション・ターゲティング・ポジショニング)を再定義し、顧客と自社の関係性を改めて見つめ直すことでもあります。
特に「ポジショニング」は、“自社らしさ”や“選ばれる理由”を一言で言い表せる状態が理想です。それをもとに発信や提案を設計すれば、伝わりやすく、納得感のある情報として届くようになります。
さらに、顧客理解は一度きりではなく、常に変化する仮説と検証の連続です。営業やカスタマーサポートの現場の声、データ、SNSの反応などを通じて、顧客像をチーム全体でアップデートし続けることが重要です。

STPを“自社視点”で決めてしまうと、思わぬズレが生まれがちです。本格的に取り組むには、顧客や現場の声を丁寧に拾いながら、どんな価値が期待されているのかを見極める姿勢が大切です。そうした仮説検証の積み重ねこそが、経営マーケティングの土台になっていきます。
2. 取り組むテーマや打ち出すメッセージを絞り、本質的なKPIを可視化する
「誰に・何を・どう届けるか」が整理できたら、次は“何を重点的に伝えるのか”を具体的なテーマやメッセージに落とし込み、それに対してどの成果指標(KPI)を置くのかを設計していく段階です。
情報を多く発信すれば成果が出るわけではありません。あれもこれも伝えようとすると、結局どの強みも伝わりきらず、競合との差別化も曖昧になります。自社の提供価値と顧客のニーズを踏まえて、訴求するテーマを戦略的に絞り込む必要があります。
例えば、業務改善ツールを提供する企業であれば、全業種を対象にするのではなく、特にどの業界に特化しているのかを明確に打ち出したほうが訴求力は高まります(例:製造業に特化した業務改善ツール)。
また、ここで重要になるのが「何を成果と見なすのか」という評価軸の設計です。単なるPVや問合せ数だけでなく、「受注に結びつくリードの質はどうか」「既存顧客がどのくらい継続しているか」といったKPIも合わせて設計することで、マーケティング活動が事業の本質的な成長に繋がります。
3. 中長期を見越した本質的なマーケティング活動
短期の施策(広告・キャンペーンなど)で一定の成果を出すことはもちろん重要です。しかし、経営マーケティングの本質は「どうやって継続的に選ばれ続けるか」にあります。そのためには、目先の反応を追うだけでなく、中長期を見据えた価値提供の仕組みを積み上げていく視点が欠かせません。
例えば、広告施策は一時的な集客には有効ですが、広告を止めた瞬間に流入が途絶えてしまうケースも少なくありません。これに対して、コンテンツの蓄積、顧客体験の向上、ブランド認知の形成、信頼関係の構築などは時間がかかる反面、積み上がるほど安定的な集客・売上基盤となっていきます。
また、短期的なPDCAサイクルだけで改善を繰り返すのではなく「戦略そのものを定期的に見直す」という経営視点のPDCAが必要です。顧客ニーズの変化、市場の変化、競合の動きに応じて、戦略の軸自体を柔軟に調整できる組織体制を整えていくことが、中長期の成長を支えます。
3.経営マーケティングのKPIは数値同士の繋がりを可視化する
マーケティングの現場では、広告の反応率、Webアクセス、SNSフォロワー数…といった個別の数字に目が行きがちです。しかし経営マーケティングにおいて重要なのは、事業全体・マーケティング活動・顧客行動の数値を「つながり」で捉えることです。各施策の部分最適ではなく、全体の流れの中でどこが詰まっているのか・何が成果に寄与しているのかを見極めることが、持続的な改善のカギになります。
多くの場合、マーケティングの問題は広告やSEOといった一箇所が大きく悪いのではなく、全体が少しずつ悪くなっていることで成果が鈍化していきます。そのため、各数字を分断せず、事業のKPI設計とセットでマーケティングの数値を整理しておくことが不可欠です。
また、現在はオンライン・オフラインの接点も複雑化しています。Web集客→リアル商談、SNS→セミナー→訪問提案、といったように、多段階のプロセス全体を見渡して数字を把握する視点が欠かせません。以下に具体的な事例を紹介します。
事例①:製造業向けBtoBシステム会社の場合
製造現場向けの生産管理システムを提供する会社では、導入検討までに段階的な情報収集が行われます。その流れ全体をKPIとして整理することで、どこに課題があるのかが見えてきます。
- 広告クリック数
最初の認知経路。リスティング広告や比較メディアからWebサイトへ流入。 - 資料請求・ホワイトペーパーダウンロード数
情報収集段階。資料提供を通じてホットリードを獲得。 - 初回商談化率
インサイドセールスがアポイント設定した件数。 - 技術ブログ・FAQ閲覧数
導入検討段階での技術課題や製品仕様の深堀り情報。 - オンライン・オフライン商談実施数
実際の案件化フェーズ。提案・見積などの活動。 - 受注率
商談から成約へのコンバージョン。 - 導入後の継続利用率
期利用・アップセル・LTV向上に繋がる指標。
これらはバラバラに見るのではなく、すべてが「一貫したプロセス」の中にある数字です。例えば、ホワイトペーパーDLは多いのに商談化率が低ければ、資料の質やアプローチ手法に課題がある可能性が見えてきます。
例②:事業承継コンサルティングの場合
事業承継支援では「今すぐの悩み」よりも「漠然とした不安」の段階が長く続くため、初期接点づくりとしてSNSや情報発信が重要です。
- SNS・Web記事閲覧数
潜在層への接触。事業承継の課題・事例紹介を発信し関心喚起。 - セミナー・ウェビナー申込数
SNSやメルマガからオンラインセミナーに誘導し、初期リードを獲得。 - 個別相談申込数
セミナーを経た相談希望者数。より具体的なニーズが顕在化。 - 面談実施数
経営者や後継者との具体的面談機会。 - 成約率
コンサルティング契約への転換率。 - 支援完了後の紹介件数
顧客紹介や事例提供など信頼の連鎖。
SNSは単なる集客ではなく、そもそも悩みの言語化が難しい分野だからこそ「きっかけを生む装置」として重要です。顧客との接触を蓄積し、商談化・契約へと自然な流れをつくる全体設計が必要になります。

事業によって「数字の連なり方」は全く違いますが、いずれも部分的な数字を個別最適で見ていては、本質的な改善につながりません。むしろ、KPIはそれぞれが「線でつながっている」ことを前提に整理することが、経営マーケティングでは何より重要です。
経営マーケティングのフレームワーク活用
経営マーケティングは「理屈だけでなく、日々の実務に落とし込んでいけること」が重要です。そのために、既存のマーケティングフレームワークを経営視点で再整理して活用していく考え方が有効です。
以下では、現場でも使いやすい代表的なフレームを紹介します。
HubSpotが提唱する「フライホイールモデル」
従来の「ファネル型(集客→営業→受注)」のモデルでは、成約がゴールでした。しかし現在は、顧客との関係性が長期的に循環するモデルが重要とされます。
フライホイールモデルは「顧客を中心に据えた自走型の成長サイクル」を描いており、3つのプロセスが循環します:
- Attract(惹きつける) コンテンツ・SNS・SEO・紹介など、価値提供型の集客。
- Engage(関係構築) 顧客理解を深めた提案・コンサル・適切な営業プロセス。
- Delight(成功支援) 導入後の活用支援・カスタマーサクセス・紹介促進。
特に中小企業では、一度獲得した顧客との関係性を長く深めていくことが持続的な成長のカギになります。経営マーケティングにおける「LTV重視」「紹介の連鎖」「サポートによる再購買」は、まさにこのフライホイール発想に近い設計です。

フライホイールモデルで小さな会社の成長戦略を描く!実践方法と仕組み作り
STP/4P/3Cフレームも、経営視点で再活用する
すでにお馴染みのこれらのフレームも「経営マーケティング版」として整理し直すと実践性が上がります。
フレームワーク | 活用ポイント |
STP(セグメント・ターゲット・ポジショニング) | 誰のどんな課題を解決するのか。自社の“らしさ”を言語化する。 |
4P(製品・価格・流通・販促) | 商品企画〜販売チャネル〜営業体制まで、組織横断で統合設計する。 |
3C(顧客・競合・自社) | 定期的に市場・競合状況を確認し、ポジション調整を行う意思決定の土台。 |

フレームワークは「型」ですが、経営マーケティングでは現場のヒアリングや数字の流れと組み合わせて使うのがポイントです。型だけを学んでも進みません。意思決定の整理装置として柔軟に使うイメージが重要です。
なぜ今、経営マーケティングが必要なのか
変化のスピードが速く、顧客の意思決定プロセスが複雑になった今、「売る仕組み」ではなく「選ばれ続ける仕組み」をつくる発想が、経営そのものに求められています。
マーケティングはもはや販促部門の仕事ではありません。どの市場で、どんな顧客に、どの価値を提供するのか──その意思決定自体が経営戦略であり、事業開発・営業・サービス・人材育成まで一貫して貫くべき軸になります。
特に中小企業においては、経営層と現場の距離が近いからこそ、全社をひとつの線でつなぐ経営マーケティングの設計が実現しやすい強みがあります。限られたリソースを分散させず、組織全体で「選ばれ続ける理由」を磨き続けることが競争優位に直結していきます。
さらに重要なのはブランディングの視点です。マーケティング施策は短期的な集客や売上を生み出す一方で、中長期的には「この会社に任せたい」「このサービスを使いたい」と思われるブランド価値の蓄積にもつながります。ブランドは広告投資に頼らずとも自然に選ばれる企業基盤を育て、長期の収益安定を支える“資産”となります。
いまこそ、施策単体の積み上げだけでなく、経営とマーケティングを統合し、意思決定の質そのものを高める「経営マーケティング」へと進化する時期にきているのではないでしょうか。
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