2022.03.13
かつて欧米ではミツバチの大量失踪が問題となり、事態を重く見た日本でも有識者会議が行われました。
「ミツバチが減少している」と聞いても、どのような影響があるのか、すぐに自分事として問題に感じられる人はあまりいないのではないでしょうか?しかしこのまま減少が続けば、自然環境や私たちの食生活に大きな影響が出ます。
そこで今回は、ミツバチが減少していることを初めて知ったという人に向けて、今後起こり得る影響について解説します。
ミツバチの存在は、自然環境にとって不可欠です。同時に、私たちの食生活にとっても欠かせない存在です。花々の受粉を助けて植物を繁栄させるだけでなく、受粉によって野菜や果物を実らせるからです。
2011年にはUNEP(国連環境計画)のアヒム・シュタイナー事務局長が、「世界の食糧の9割を占める作物100種類のうち、7割以上がミツバチによって受粉している」と発表しています。
このことからも、ミツバチの存在が私たちの食生活を支えていることがわかります。
欧米で発生したミツバチの大量失踪は、「蜂群崩壊症候群(Colony Collapse Disorder:CCD)」と呼ばれ、世界各国で同様の現象が見られ、現在も問題となっています。
また日本においても、ミツバチの大量死や異変が発生し、生存数の減少が続いています。こうした事態がなぜ起きるのか、考えられる原因をみていきましょう。
欧米でミツバチの大量失踪が起きた後、その原因として「ネオニコチノイド」系農薬による影響の可能性が指摘されました。ネオニコチノイドとは、殺虫効果のあるニコチンの類似物質として開発された物質です。
農作物につく害虫駆除や、植物が受ける害虫被害を最小限に抑えることを目的として、散布ます。効果の持続時間が長く散布回数が少なく済むというメリットを持ちます。そのため、多くの農作物を育てる過程で使われてきました。
しかしミツバチに限らず、ネオニコチノイド系農薬を散布している田んぼではアキアカネやワカサギが同様に減少していることがわかりました。こうした背景を踏まえ、ネオニコチノイドが生物に対して何らかの影響を及ぼしているということは言えるでしょう。
ミツバチの大量失踪や大量死の原因として、もうひとつ考えられているのは、ミツバチの体に寄生するダニによる被害です。ミツバチヘギイタダニというダニは、幼虫とサナギの中間期であるミツバチの体液を吸って産卵し、繁殖します。
一方、体液を吸われた蜂は成虫になっても羽が縮れて飛べず、花の蜜や花粉を集められません。つまりエサを得ることが出来ないまま、命を落とすこととなります。
欧米では数百万箱以上の巣箱がダニの被害に合い、巣箱にいたミツバチは全滅したと言われています。しかし、ダニの詳しい生態はわかっておらず、現在もなお、対策のための生態研究が行われています。
気候変動も、ミツバチの生育に大きな影響を及ぼしています。蜂は温度や湿度などにデリケートで、季節ごとに状態が変化します。そのため、養蜂農家は気候に応じて適切な管理方法で蜂を育てています。
しかし、地球温暖化によって植物の開花時期がずれたり花が咲かず、蜂がエサを得られなくなっているのです。熱波や豪雨などの異常気象も、蜂にとって過酷な状況です。
一方、蜂の天敵であるダニや寄生虫は温暖化によって寿命を延ばし、蜂にとってはより生きづらい環境となっています。
ミツバチが減少を続けることで、自然環境や私たちの生活には具体的にどのような影響があるのでしょうか。それぞれ詳しくみていきましょう。
ミツバチが減少し続ければ、多くの植物は受粉が出来ず数を増やすことが出来ません。森林の減少にも繋がり、地球温暖化は加速するでしょう。
また、森林減少が続くと雨水の浄化機能を失い、水質汚染や水害を引き起こす原因となります。水質汚染が起きれば、川や海に住む魚や貝、海藻といった生態系も被害を受けます。
同様に、植物が育たないことで、ミツバチのように花の蜜を吸う蝶や木の実を食べる動物はエサを失うでしょう。こうした事態がさらなるミツバチの減少を招き、悪循環となるのです。
ミツバチの減少による影響は、自然環境に対するものだけではありません。はちみつや野菜、果物の獲れる数が減り、価格の高騰が起こります。
他にもコーヒー豆やアーモンドもミツバチによる受粉が行われているため、ミツバチが減るとこうした食品は価格が高騰したり、口に出来なくなったりするでしょう。
植物を食べて育つはずの家畜を育てることが出来なくなり、食肉や乳製品も、入手出来なくなります。さらに、綿花の生育過程でもミツバチによる受粉が行われているため、コットン製品が使えない、着られないといった事態も起きます。
農作物の種類によっては、農家による自家受粉が行えるものもありますが、ミツバチが媒介することによって効率的かつ経済的に受粉を行えるだけでなく、果実の品質も良くなるため、やはりミツバチの存在に頼らざるを得ないのです。
これらを踏まえると、ミツバチの減少は私たちの生活ひいては経済を破綻させるだけのインパクトがあると言えるのではないでしょうか。
減少を続けるミツバチを救うため、そして自然環境や私たちの生活を守るため、今、世界ではどのような取り組みが行われているのでしょうか。
現在EU諸国では、ネオニコチノイド系の農薬の使用が規制されています。具体的には、それまで使用が認められていた5種のネオニコチノイド系農薬のうち、3種が使用禁止となりました。
フランスは世界でも突出してネオニコチノイドの規制に取り組んでおり、2020年7月には5種すべてのネオニコチノイド系農薬の使用を独自に全面禁止としています。
またカナダでも一部の例外を除いて使用を規制するなど、多くの国で規制が行われています。
日本でも、トンボやミツバチの減少が見られていて、他国の状況も踏まえて2017年に「農薬の昆虫類への影響に関する検討会」が開催されました。
6回にわたり有識者による分析や議論が行われましたが、日本は農薬の使用方法が他国と異なる、農薬以外にも生物の生息に影響を与えうる要因があるなどの理由から、ネオニコチノイドが直接原因であるとは明らかでないと結論づけました。
そのため日本では現在もネオニコチノイドに対する規制緩和が行われています。しかし、農家や影響を知る消費者からはネオニコチノイド系農薬の早急な使用規制が求められています。
ミツバチを守るための対策として、先進国の多くで行う農薬の使用規制と並行して、日本ではミツバチの生育環境を保護するルールを運用しています。
ミツバチに直接農薬がかからないよう、農家が農薬散布する時期をあらかじめ養蜂家に連絡することを指導したり、農家に対する農薬の使用方法の工夫を促したりしています。
またアメリカ政府やアメリカのNGO団体もミツバチの生育環境を整える取り組みを行っている他、ユニリーバやネスレといった企業はミツバチのために蜜源を確保したり創出したりしています。
この記事では、ミツバチの減少が私たちの環境や生活に及ぼす影響について解説しました。ミツバチの減少が、こんなにも私たちの暮らしに大きく影響するとは思わなかったという人が多いのではないでしょうか?
ミツバチを守るために私たちが出来ることは、買い物をするときに無農薬・オーガニックの野菜や果物、製品を選ぶことです。
無農薬やオーガニックで作られたものは値段が高く、手が出ないという印象があるかもしれません。しかし、価格の安いものの多くは多量の農薬が使われ、大量生産されています。
「買い物は投票」であることから、無農薬・オーガニックのものを積極的に購入することで、無農薬・オーガニックで作物や商品を作る農家やメーカーを応援することに繋がり、ミツバチを守ることに繋がります。
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