2022.03.14
私たちの生活に欠かせないパーム油。さまざまな食品に入っているだけでなく、洗剤やシャンプーにも含まれています。そのため、私たちはパーム油なしに生きることはできないと言っても過言ではありません。
そんな便利なパーム油が、自然や人に対して悪い影響を及ぼしています。この記事では、パーム油が及ぼす影響について知りたい方向けに、パーム油が自然や人にどんな影響を及ぼすのか解説します。
パーム油は、「アブラヤシ」の果実から採れる油です。主に食用油として使われています。消費量の多さは、菜種油や大豆油に並びます。製品には、「植物油脂」と表記されることもあります。
ヤシの木には、「アブラヤシ」「ココヤシ」「ナツメヤシ」など複数の種類があります。ヤシの木」と聞いて、私たちがすぐにイメージするのは「ココヤシ」と呼ばれる種類です。ココヤシから採れる油はココナッツオイルとして知られていて、パーム油とは異なります。
またパーム油の産地は、インドネシアやマレーシアなど、東南アジアが中心となっています。
パーム油はポテトチップスやフライドチキン、ドーナツなど、私たちが好んで口にする多くのものに入っています。マーガリンにも含まれているため、知らずに口にしていることも多いでしょう。
食べ物の他、食器を洗う洗剤やシャンプーなど日用品にも多く使われていて、私たちの生活には不可欠です。
パーム油は「汎用性がある」という特徴から、食品や日用品に使われる機会が増えました。汎用性があるとされる理由として、固めても融かしても使える点が挙げられます。
パーム油は、固体から液体になる「融点」が37℃前後と言われています。そのため、マーガリンやチョコレートに混ぜると、口に入った瞬間にパーム油が融けてなめらかな舌触りが実現出来るのです。
液体である場合は、ポテトチップスやフライドチキンの揚げ油として使われます。揚げ油にすると、油が酸化しづらくサクッと軽い仕上がりになるというメリットがあります。
さらに、生産効率が良く安価であることも、パーム油が日常的に使われる理由となっています。
食品や日用品への汎用性があるパーム油は、多くの製品に用いられています。一方で、パーム油の使用が、自然環境や人間に悪影響を及ぼしています。
どのような影響があるのか、具体的にみていきましょう。
パーム油の産地であるインドネシアやマレーシアでは、アブラヤシ農園への農地転換により、大規模な森林伐採が行われました。
新たにアブラヤシは育つものの、多くの森林を失い、それまで存在していた生態系も破壊することとなりました。
WWF(世界自然保護基金)では、インドネシア スマトラ島の森林面積を1985年と2016年で比較。1985年には島の58%を占めていた森林が、2016年には24%まで減っていると発表しています。
同じくインドネシアのボルネオ島では島の面積の約1/3に相当する森林が失われていると言われています。
また、インドネシアには泥炭湿地林(でいたんしっちりん)と呼ばれる泥炭地があります。泥炭地には枯れた植物が浸かり、分解されないまま堆積しています。
水分を多く含むため、アブラヤシを育てようとしてもそのままの状態では育てることが出来ません。そこで整地するために、もともとある植物を伐採し、泥炭地を燃やします。この行為によって、多くの温室効果ガスを排出することとなるのです。
アブラヤシ農園への農地転換によって、野生動物にも影響が出ています。農地転換による森林伐採で、オランウータンやゾウなど絶滅危惧種を含む動物の住処が奪われています。
それだけでなく、住処や食べ物を求めてアブラヤシ農園に入ったオランウータンやゾウは、害獣として扱われるのです。
動物によって食い荒らされたり踏み荒らされたりすることで、農家は収入を失い、生活ができなくなるため、農園に入り込んだ動物は害獣とみなされます。
農地に入った動物によって、人間が命を失うことがあります。動物は食物や住処を求めて農地に入り込んだものの、人間に遭遇して興奮し、攻撃するのです。
また、森林には先住民がいることもあります。農地転換による森林伐採によって、先住民が、住む場所を失うこともあります。時には土地の権利をめぐって、紛争に発展することもあります。
さらに、アブラヤシ農園では不当労働や児童労働といった人権問題も深刻となっています。低い賃金で厳しいノルマが課されたり、子どもを学校に通わせずに強制労働させたりする問題が起きています。
自然環境、野生動物、人間への影響を踏まえ、パーム油の使用を避けようと感じる人は多いでしょう。しかしパーム油の使用を避けることで、新たに起きる問題があります。
それは、さらなる森林破壊です。
人間にとって油は生きる上で欠かすことが出来ません。仮にパーム油の使用を全面的に停止した場合、菜種油や大豆油といった代わりとなる油を使用することになります。
ただ、パーム油の生産性の高さに匹敵する代替油はなく、パーム油と同量の油を得るためにはより多くの植物を収穫しなければなりません。
つまり、さらなる森林破壊へと繋がる懸念があるため、パーム油の使用を完全停止することは出来ないのです。
人間はいま、パーム油を使い続けることによって自然環境や野生動物ひいては人間にも悪影響があると知りながら、使用をやめられないという矛盾を抱えています。
そうした矛盾をなくし、パーム油の使用やアブラヤシ農園への農地転換による影響を最小限にする必要があります。そこで対策として行われているのが、「持続可能なパーム油」の生産です。
対策の一環として、RSPO(Roundtable on Sustainable Palm Oil=持続可能なパーム油のための円卓会議)と呼ばれる国際組織が結成されました。アブラヤシ農家や製油企業、環境・自然保護NGOなど、7つのカテゴリの団体が所属しています。
RSPOは、パーム油の持続可能な生産および利用を目指しています。RSPOの行う取り組みによって、アブラヤシ農園から最終製品となるまでの全工程を認証・管理し、追跡出来るようになりました。
パーム油の生産過程においてRSPOの要求基準を満たした製品は、持続可能なパーム油として認められ、「RSPO認証」のマークが付与されます。
消費者である私たちが、パーム油に関する問題を小さくするあるいはなくすために出来ることは、大きく2つあります。1つは、RSPO認証を受けた商品を選ぶことです。
パーム油を使用した製品を購入する際、認証マークのついた製品を選ぶことで、持続可能なパーム油を生産するPSROの取り組みを支援することとなります。
2つめは、ムダな買い物をせずに必要な買い物のみにとどめることです。パーム油の生産は年々、右肩上がりになっています。生産は、需要がなければ行われないはずです。
つまり、私たちが必要なものだけを買っていれば需要が大きく伸びることはなく、結果として生産量も大幅に増える必要がなくなります。
購買行動を見直し、今後、自然や私たち自身の生活環境を守る暮らしをしたいものです。
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