2023.06.17
アップサイクル食品とは、野菜の茎や皮、規格外の野菜や果物など、これまで市場に出せなかった、あるいは廃棄されていた食材を活用し、付加価値を持たせた食品です。フードロス削減に寄与することから食品業界で注目されていて、今後、市場規模も拡大すると言われています。
しかし現状では、一般的な認知度は低い状態です。実際、多くの人にはなじみがなく、どんな食品があるのか具体的に思い浮かばないのではないでしょうか。この記事では、アップサイクル食品とは何か、具体的にどんな食品があるのか、さらに市場規模拡大が予想される背景についてご紹介します。
環境負荷の低減、持続可能な社会の実現に向けて、さまざまな物のアップサイクルが注目されており、同様に、食品のアップサイクルも注目を集めています。ここではまず、アップサイクル食品の定義や要件について解説します。
アップサイクル食品の定義は、2020年に、アメリカにあるアップサイクルフード協会(本部:コロラド州デンバー)によって発表されました。
定義の内容は、以下のとおりです。
「Upcycled foods use ingredients that otherwise would not have gone to human consumption, are procured and produced using verifiable supply chains, and have a positive impact on the environment.」(訳:アップサイクル食品とは、本来であれば人間の消費にまわらない材料を使い、検証可能なサプライチェーンで調達し、生産された、環境に対して良い影響を与えるもの。)
アップサイクルフード協会はさらに、アップサイクル食品の要件として、以下の5つの項目を挙げています。
「1. Upcycled foods are made from ingredients that would otherwise have ended up in any food waste destination.
(アップサイクル食品はそのままであれば食品廃棄されてしまう材料から作られます)
2. Upcycled foods are value-added products.
(アップサイクル食品は価値を加えられた製品です)
3. Upcycled foods are for human consumption.
(アップサイクル食品は人間が消費するためのものです)
4. Upcycled foods have an auditable supply chain.
(アップサイクル食品は監査可能なサプライチェーン上のものです)
5. Upcycled foods indicate which ingredients are upcycled on their labels.」
(アップサイクル食品はどの材料がアップサイクルされたものかをラベルに表示します)
アップサイクルフード協会は、アップサイクル食品の定義を発表した翌年の2021年に、
「アップサイクル認証」を発表しました。これは第三者の認可を受けた認証システムであり、アップサイクルされた食品原料および製品であることが認証されるとこのマークが貼付されます。
「アップサイクル」と混同しやすい言葉として、「リサイクル」があります。両者の違いは、過去に消費・使用したものであるか、という点です。
「アップサイクル」はこれまで消費・使用せず廃棄していたものに新たな価値を加えることを意味します。一方、「リサイクル」は、これまで消費・使用して不要になったものを再資源化した上で再利用することを指します。
ここからは、実際に販売されているアップサイクル食品を紹介します。
オイシックス・ラ・大地株式会社が運営する、「Oisix(オイシックス)」をはじめとしたサブスクリプション型食品EC事業では、野菜や果物の廃棄部分を活用したチップスを販売しています。
例えば、ブロッコリーの茎をココナッツオイルで揚げて味付けしたチップス、パイナップルの芯を薄切りにしてココナッツオイルで揚げたチップス、といった商品があります。
熊谷青果市場は、規格外の果物を使用して作るジェラートブランド「Fruver(フルベル)」を立ち上げ、ジェラートのオンライン販売を行っています。
「Fruver」は市場が手掛ける6次化商品として誕生したブランドで、地産・国産にこだわり、毎朝市場に入荷される新鮮な野菜・果物を使っています。
6次化商品とは、1次産業(農業)だけでなく、2次産業(食品加工)や3次産業(流通・販売)も取り込んだ多角的な経営によって生まれた商品のことで、1、2、3を掛けて6となります。アップサイクル商品のコンセプトともぴったり合いますね。
「日の出みりん」で知られるキング醸造株式会社が手掛けた新ブランド「ORYZAE JOY(オリゼー ジョイ)」では、日本酒、みりんの製造過程で発生する醸造粕を使用したグラノーラを販売しています。
こちらは着色料や香料を使用せず、身体にやさしいアップサイクル食品です。グラノーラの他、同じく醸造粕を使用した飲料も販売しています。
日本経済研究所が発行している資料には、「米調査会社 Future Market Insights (フューチャー マ―ケット インサイト)によると、食品廃棄物を使用した製品の市場規模は、2019年時点で467億ドル(5兆1,000億円)であり、今後はアップサイクルフード需要の高まりにより2029年まで年率5%で成長するとされています。」と記されています。
近年では日本でも、りんごの皮やパイナップルの葉を使用したヴィーガンレザー、ぶどうの皮を使用したヘアケアアイテムなど、食品に限らずさまざまなアップサイクル製品が販売されており、市場拡大が感じられます。
市場規模拡大の理由のひとつに、アップサイクルフード需要の高まりが挙げられています。ではなぜ、こうした需要は高まっているのでしょうか。また、この他に考えられる市場規模拡大の理由をあわせて解説します。
農林水産省によると、日本の1年間あたりの食品ロスは約612万トンです。さらに世界全体では、1年間に約13億トンの、食べられるはずの食糧が廃棄されています。
こうした実状を踏まえ、環境負荷の低減や持続可能な社会の実現に向けて、食品ロス削減の対策が急務となっています。
そんななか、「アップサイクル」はこれまで食べることなく廃棄していた食品を有効活用しながら食品ロスを削減できるため、注目度と需要が比例して高まることとなりました。
アップサイクルの市場規模拡大が見込まれる背景にはもうひとつ、投資家にとって投資価値があることも考えられます。
近年、ESG投資と呼ばれる投資方法が定着しています。ESG投資とは、環境(Environment)、社会(Society)、ガバナンス(Governance)の頭文字をとったESGに関する取り組みを評価して投資家が投資対象を選別する方法です。
各投資家はESG投資を行うことによって、投資先に環境・社会への継続的な配慮を促せます。一方、投資を受ける企業や団体は、社会的役割を果たす目的のほか、企業イメージの向上、資金調達なども考慮し、アップサイクルをはじめ環境・社会に配慮したさらなる取り組みを行います。
こうした流れによる、アップサイクルへの取り組みをはじめとしたESG経営を行う企業の拡大・増大がさらなる投資価値を生み出し、市場規模拡大へと繋がります。
食品ロスを減らすため、そして生産者への感謝を形にするため、私たちにできることは、食べ物をムダなく食べることではないでしょうか。具体的には、各家庭で食材を調理する際にムダを出さない工夫をすること、残さず食べること、そしてアップサイクル食品を積極的に購入することが挙げられます。
アップサイクル食品の製造・消費は、今後起こると言われている食糧不足対策のひとつにもなり得ます。ぜひ、毎日の食事にアップサイクル食品を取り入れてみてください。
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