アニマルウェルフェアとは?動物に苦痛を与えないための考え方|circu.(サーキュ)

2022.09.26

アニマルウェルフェアとは?動物に苦痛を与えないための考え方

家畜やペットなどの動物に、必要以上の苦痛を与えるべきでないとする「アニマルウェルフェア」という考えが広まっています。動物福祉とも呼ばれ、動物も人間と同じように苦痛を感じていて、その苦痛から解放されるべきという考えに基づいて、世界でさまざまな取り組みが始まっています。今回は、アニマルウェルフェアについて初めて知る人に向けて詳しく解説します。

アニマルウェルフェアとは

動物にも苦痛という感覚があり、その苦痛から解放されるべきという考え方です。また、家畜やペットを安全で快適な環境で育て、ストレスや疾病を減らすことを目指すものです。

アニマルウェルフェアの考え方は、1960年代にイギリスから始まったと言われています。日本においては近年、農林水産省がアニマルウェルフェアの考え方を踏まえた家畜の飼育や管理の普及に努めています。そうした活動により、日本でもアニマルウェルフェアの考え方が少しずつ広がりを見せています。

5つの自由

人間が飼育する動物に関する国際的な福祉指標として、「5つの自由」が提唱されています。1960年代にイギリスでアニマルウェルフェアの議論が始まった際に提唱され、現在に至ります。

当時、畜産業における家畜の飼育環境は劣悪なものでした。鶏が羽を広げることすらできない、あるいは豚が身動きもとれないほど狭いケージで育てられたり、アヒルやガチョウはフォアグラを生産するために無理やり給餌されたりしました。また、牛は角を取り除かれたり、しっぽを切断されたりすることもありました。

こうした家畜の飼育環境の改善を求めて、「5つの自由」が提唱されました。人間は動物に対して、以下の自由を与えなければならないとしています。

1. 飢えや渇きからの自由
動物が健康的に生きるために充分な栄養・食事が与えられ、綺麗な水がいつでも飲める状態にあること
2. 痛み、負傷、病気からの自由
ケガや病気をしないよう、安全で衛生的な環境で育てられること
3. 恐怖や抑圧からの自由
恐怖や不安などの精神的苦痛、ストレスから守られること
4. 不快からの自由
衛生的で快適な環境、かつ自由に身動きが取れる環境に置かれること
5. 自然な行動をする自由
各動物が本来もつ習性に基づいた自然な行動がとれるように育てられること

アニマルウェルフェアを唱える人々は、これら「5つの自由」によって、動物がのびのびと本来の姿に近い状態で育てられることを目指しています。

アニマルウェルフェア実践の具体例

アニマルウェルフェアの実践の一例として、欧米を中心に展開されている家畜の「ケージフリー」が挙げられます。ケージフリーとは、鶏やアヒル、ウサギなどを狭いケージに入れず、平飼いあるいは放し飼いといった野生に近い状態で飼育する方法です。

こうした取り組みにより、これまで狭いケージに入れて育てられていた鶏やアヒルなどを身体的・精神的ストレスから解放することができます。

EUでは2021年、欧州議会が2027年までにEU域内での畜産分野におけるケージの使用を段階的に禁止する決議を採択しました。同時に、アヒルやガチョウへの強制的な給餌の禁止も求めています。法的な拘束力はないものの、今後の立法に向けた声も上がっています。

またマクドナルドやスターバックスなど、アメリカの大手企業やホテルなどを中心に、企業主体でのケージフリーの取り組みも行われています。

アニマルウェルフェアにおける日本の現状

海外でケージフリーの取り組みが広がっている一方、日本は遅れをとっていると言われています。その原因は、大きく2つ考えられます。

1つめは、コストです。これまでの家畜の飼育方法をやめ、アニマルウェルフェアを実現するには新たな設備費や人件費など大きなコストがかかります。

このコストを負担できないために、取り組みが進まないとされているのです。海外では農家のコスト負担を下げるため、ケージフリーへの補助金制度が設けられている国もあり、日本でも同様に補助金制度を設けてほしいという声が上がっています。

2つめは、ケージフリーを行った場合に生じる個体差です。同じ大きさのケージで同じ量の餌を与えられて育った家畜を食肉加工したり、牛乳を搾ったりした場合は、味に個体差はなく、ほぼ均一になります。

しかし、放し飼いにして家畜が自由に過ごし、好きな量の餌を食べて育った場合、個体によって加工後の肉の硬さや牛乳の味にばらつきが生じます。

安定した美味しさを求める消費者にとって、味や品質に差のある肉や牛乳は不安定に感じられます。そのため、消費に繋がらなくなってしまうのです。

海外では、搾乳した牛の名前をあえてボトルに貼ることで、消費者がお気に入りの味の牛のファンになるといった動きも見られています。しかし日本でこうした取り組みが受け入れられるには、まだ時間がかかるでしょう。

私たちにできること

しかしながら、アニマルウェルフェアは私たちにとって縁遠い話ではありません。肉を食べたり、ペットを飼ったりしている私たちが、もっと身近に感じ行動すべき問題です。では私たちには、具体的にどんなことができるのか見ていきましょう。

アニマルウェルフェア認証マークのついた食品を選ぼう

一般社団法人 アニマルウェルフェア畜産協会は、アニマルウェルフェア認証システムを創設し、2016年から運用を行っています。

具体的には、「5つの自由」を守って評価項目の80%以上をクリアした農場を協会が認証し、その農場で育った家畜から生産された畜産食品に認証マークを付けて販売します。このような取り組みを通じてアニマルウェルフェアの普及を目指しています。

私たち消費者がこうした取り組みを知り、認証マークのついた食品を積極的に購入することで、アニマルウェルフェアの取り組みに貢献することができます。

肉を食べない日を作ろう

動物が生きている間の快適さをいくら追求しても、最終的に食べてしまうのであればアニマルウェルフェアの意味がないという声もありますが、より多くの動物を救うためには、私たち一人一人が肉の消費量を減らすことも有用です。

とはいえ、まったく肉を食べずに、完全なベジタリアンになることは簡単ではないかもしれません。しかし近年では、1週間のうち月曜日だけは肉を食べない「ミートフリーマンデー」という取り組みが少しずつ広まってきています。

一人一人が週1回など、今より少しでも肉や乳製品の消費量を減らすことで、家畜を救うことができるかもしれません。

ペットにも快適な環境を提供しよう

アニマルウェルフェアは、家畜に限った話ではなく、ペットにも当てはまる考え方です。猫には運動できるキャットタワーを用意し、犬の首輪はきつすぎないものを用意するなど、その動物本来の姿に近い状態で暮らせる環境を用意することが大切です。

また、動物にも個性があるため、一概に「猫だから」「犬だから」と括ってしまうのではなく、目の前にいる家族が今何を求めているかということを感じとり、受け止めることが大切でしょう。

認証マークのついた畜産食品を購入したり、肉や乳製品の消費量を今より少し減らしてみたり、またペットが本来の姿に近い状態で暮らせるような環境づくりをしたりなど、私たちにできる身近なことから少しずつ、アニマルウェルフェアの活動を実践していきましょう。

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