2021.08.13
日本に住んでいるとピンとこないかもしれませんが「食糧不足」は世界中の課題です。食糧不足とは2つの問題を意味しています。1つは、食糧の需要が供給を上回り、世界全体で食糧が足りなくなるという問題。2つめは、先進国には食糧の余剰がありながら、開発途上国では不足しているという地域格差の問題です。
世界全体で直面している食糧不足について、国際シンクタンク「Institute for Economics & Peace(IEP)」によると、2050年までに35億人が食糧不足に苦しむ可能性があると言われています。
この記事では少しでも食糧不足を回避できるよう、改善・解消に向けて現状を知り、私たちにできることを一緒に考えていきます。
ここでいう「食糧」とは、米や小麦といった主食となる穀物を指します。農林水産省のホームページに掲載された、2021年5月の米国農務省(USDA)の「米国農務省穀物等需給報告」によると、2021/22年度の世界及び主要国の穀物や大豆の生産量が、消費量を下回るとされています。
また、「Institute for Economics & Peace(IEP)」の発表によると、すでに2020年時点で20億人以上が充分な食糧を得られていません。
この人数が、2050年には35億人に達すると言われており、食糧不足が深刻な問題となっています。
食糧不足の原因は、大きく3つあります。1つは「気候変動・自然災害」。2つめは「地域格差・経済格差」。そして3つめは「需要と供給のアンバランス」です。
3つの複雑化した課題を、それぞれ解決する必要があります。そこで、各問題の原因について、具体的に解説します。
温暖化による気候変動や、干ばつ・洪水などの自然災害は、穀物の収穫量に影響を与えます。収穫量が減ることで、直接的に食糧不足の原因となります。
また、気候変動や自然災害によって、育っていた穀物だけでなく、畑そのものがダメージを受ける場合もあります。ダメージを受けた畑では穀物が育たなくなり、1年に限った話ではなく、その後永久的に収穫ができなくなります。
気候変動や自然災害があった中でも収穫された穀物は、貴重な食糧なので、市場に出回ると価格が高騰します。そのため資金のない国は輸入ができなかったり、貧困に悩む地域・個人では食糧を購入できず、貧富による格差がうまれます。
また、食糧が得られないことは、同時に労働力を下げることにつながります。食糧が充分に得られず空腹の状態では、生産性が上がらないだけでなく、健康を失い働けないため収入が減り、さらに食糧の確保が困難となります。
こうして、負の連鎖がうまれ、地域格差および経済格差による食糧不足の問題が大きくなっていきます。
先進国の人口増大や畜産物への需要の高まりなどにより、穀物の消費量は年々増えています。先進国での経済発展に伴い、肉や乳製品などの需要は高まり、畜産物を育てるための飼料として穀物が必要です。
また、近年注目されている、再生可能エネルギー。しかし再生可能エネルギーのひとつであるバイオ燃料は、食糧のような有機物を燃やすことでエネルギーとなります。そのため、バイオ燃料の需要が高まれば、食糧の必要量も比例して高まります。
こうして穀物の需要が高まる一方、気候変動や自然災害によって穀物の収穫量が減れば、その差は大きく開き、さらなる食糧不足へと悪化します。
そして実は、食糧不足には食品ロスの問題も大きく関わっています。食品ロスの原因は、先進国への過剰な供給だけでなく、開発途上国では食品の保存環境が整っていないことから発生しています。
本来なら食べられるはずの食品が多く廃棄されることで、本当に食糧を必要とする人の手元に届かず、食糧不足へとつながります。
食糧不足の3つの原因を見ると、すべてが密接に関連していて、すぐに根本解決することが難しいとわかります。
しかし、誰ひとりもとり残さない社会を作り、SDGsのゴールを達成するには、地道な取り組みが欠かせません。
世界的におこなわれている取り組みの例として、国連世界食糧計画(WFP)の活動があります。WFPとは、世界最大の人道機関、つまり人権を支援あるいは保護する機関です。世界の人々の平和、安定、繁栄に向けて、さまざまな活動を実施しています。
なかでも、食糧不足に関しては、食糧が足りない地域に対する食糧援助や学校給食の支援などをおこなっています。
また食糧援助は、WFPに限らず、多くの国や団体もおこなっており、地域・経済格差を埋める活動となっています。
今、食糧不足を解消する一手として、世界で期待されている「フードテック」。フードテックとは、最新テクノロジーによって、これまでにない食品の開発をしたり、新しい調理法を生み出したりすることです。
たとえば、牛肉や豚肉ではなく大豆からハンバーグが作られるように、新しい食材で調理できるようになることで、食糧が確保できます。
そのうえ、新しい食の選択肢がうまれ、食文化がより豊かになることも期待できます。
そうした食材確保のほかにも、最新技術で食糧の長期保存が可能となれば、食品ロス削減にも効果があります。食品ロスが減ることで、食糧の需要と供給のバランスを保てます。
また、廃棄となった食品を燃やす際に排出される温室効果ガスを減らせるので、地球温暖化も緩和できるというメリットがあります。
さらには、食材における菌の繁殖をチェックする技術もうまれ、食の安全が守られるようになります。こうした技術革新により、安全な食糧を必要なだけ確保することができます。
日本は、WFPへの協力など、世界がおこなっている取り組みに積極的に参加しています。そしてそのほかにおこなっている取り組みも紹介します。
CGIARとは、開発途上国の農林水産業における技術および生産性向上、環境保全などを目的に設立された国際組織です。(引用:wikipedia)
CGIARには約50人の日本人が所属し、農業における知見・経験などを踏まえて農業支援をおこなっています。
農業支援は、食糧の安定した収穫量を得られるだけでなく、開発途上国の雇用の機会創出にもつながります。こうして、先進国との経済格差の縮小も期待できます。また、劣悪な環境での労働も減り、働く人々の保護にも貢献できます。
民間の取り組みではありますが、食品ロスを減らす活動の一環として「フードバンク」があります。「フードバンク」とは、まだ食べられるのに廃棄される食品を、食べ物に困っている施設や人に届ける活動やその活動をおこなう団体を言います。
たとえば、お中元やお歳暮でもらい食べきれない食品や防災備蓄として所有していた食べ物を集め、日本からフィリピンに送った事例があります。
フードバンクはほかの国でも行われている活動ですが、特に食品ロスの多い日本では、大きなインパクトのある取り組みと言えます。
食糧不足を少しでも改善するため、私たちがまずするべきことは、食品ロスを減らすこと。そのためには、食材は必要な分だけ購入する。購入した食材は必ず使い切ることが大切です。
食品ロスを減らすことは、廃棄して燃やす食品を減らすこととなり、排出される温室効果ガスの削減につながります。つまり、食糧を育てるための気候・環境を守る取り組みのひとつとなります。
そして、備蓄品が余った、いただき物が重なったなど、どうしても食べきれないものがある場合は、フードバンクを利用することで、食糧に困窮している地域や人々を救うことができます。
また、週に1度でも食肉や乳製品をとらない日を作ることも対策のひとつとなります。食肉や乳製品の消費量を減らすことで、畜産物の飼料となる食糧の消費量を減らすことが可能となるからです。
今、推計されている2050年の食糧問題を回避できるよう、ひとりひとりが少しずつ取り組みをおこなっていきましょう。
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