薬膳とは?中医学に基づく基本的な考え方とおすすめ食材の選び方|circu.(サーキュ)

2023.04.02

薬膳とは?中医学に基づく基本的な考え方とおすすめ食材の選び方

薬膳とは、中医学(中国の伝統医学)の考え方をもとに、季節や体調に合わせて選んだ食材で作られた料理のことをいいます。「薬膳」というと、手に入りにくい食材や漢方薬を使用した、ちょっと薬臭くて食べにくい料理を想像する方もいるかもしれません。

しかし、例えば体が冷えてしまった時に、体を温める働きがあるショウガと鶏肉をコトコトと煮込んだスープを作れば、もう立派な薬膳です。この記事では、薬膳の基本の考え方や代表的な食材についてご紹介します。

薬膳の考え方とは

冒頭にもお伝えしたとおり、「薬膳」とは、古くから中国で大切にされてきた食養生の考え方に基づいています。宮廷に仕えている医師の中には、獣医、外科医、内科医などさまざまな役職がありましたが、薬膳を取り仕切る食医は、医師の中でも最高位に位置していたそうです。まずは薬膳の考え方について、ご紹介します。

薬膳は中医学の考えをもとにしている

今から4,000年以上前、中国では、独自の医学「中医学」が生まれました。中医学では、陰と陽、五行(木・火・土・金・水)の要素、また、「気・血(けつ)・津(しん)(津液(しんえき))」といった概念から人体の生理、病理や疾病の診断を行います。世界各国で編み出された医学の中でも、論理的な体系が古くから最もよく整っていたのが中医学だといわれています。

実際には、西洋医学のように、病気をピンポイントで診るのではなく、体全体のバランスや住んでいる自然(環境)など、その人を取り巻くすべての要素から病気を見立て、治療を行います。

例えば、頭痛が起こっている場合、西洋医学のように鎮痛薬を使用するのではなく、頭痛の大元となる原因を断つために必要な薬を処方します。まず、その頭痛がなぜ起こっているのかを考えます。風邪や不眠ではなく、もし肩こりから来ているものならば、冷え、緊張や働きすぎなどの中から肩こりの原因を見極め、それに合わせて薬を処方するという流れです。

薬膳の基本的な考え方

このような考え方のもとに発達してきた中医学では、「薬食同源」といって、食べ物は薬と同じだと考えます。「未病(病気ではないものの、健康からは離れつつある状態)」ということばがありますが、この未病を防いで日々を健康に過ごすという考えのもとに生まれたのが薬膳料理です。

季節の移ろいに合わせて体調を整えたり、ちょっとした不調を治したりすることを目的として、それに沿った調理方法で作るのが特徴です。食材は身近なものをメインとしていますが、中医学でも使用する生薬を補助的に加えることがあります。

薬膳で考える食材の選び方

薬膳を調理するにあたっては、その中心となる「薬食同源」の考え方に基づき、食材の持つ性質や私たち一人ひとりの体質を考えて、適切な食材や調理法を選びます。

五味・五色による食材の分け方

薬膳では、食材にはそれぞれの性質があると考えます。

五味・味覚や治療効果によって食材を分ける

代表的な食材主な働き
酸味(渋味)酸味:レモン・梅・酢など
渋味:ピーナツの薄皮・栗の渋皮など
収斂(しゅうれん)、活血・固摂(多汗や月経過多、慢性下痢、尿漏れなど、体液や血液が漏れるのを防ぐ)の働き
苦味ゴーヤ・緑茶・菜の花など体の熱を冷ます働き、デトックス効果
甘味穀類・豆類・イモ類など胃腸の働きを整え、体力を回復させる働き
辛味ネギ・ショウガ・唐辛子など発汗・血行促進、冷えの改善
むくみやストレスの解消
鹹味(かんみ、塩辛い味の意)牡蠣・すっぽん・いか・アサリなど更年期や老化によるほてりの抑制、滋養強壮の働き

※淡味(ハトムギや湯葉などの食材で、体力を保持しながら利尿する作用を持つ)を加え、六味とする場合もあります。

食材を青・赤・黄・白・黒の五色に分類

五色 体に及ぼす効果が食材の色ごとに異なると考える。

代表的な食材主な働き
セロリ・ほうれん草・セリなど体の熱を冷ます働き、のぼせやストレスの解消
桑の実・クコの実・なつめ・エビ・マグロ・鮭・赤ワインなど貧血予防、血液の巡りの改善
じゃがいも・かぼちゃ・大豆・味噌など胃腸の働きを整える働き、下痢や便秘の改善
えのきたけ・カブ・大根など呼吸器や皮膚の潤いを保つ働き
黒ゴマ、黒豆、イカ墨、牡蠣など発育促進、老化防止、滋養強壮

体質による食材の選び方

疲れやすい、イライラしやすい、むくみやすいなど、私たちが持っている体質は人によって違いますね。それぞれの体質に適した食材を選んで取り入れることもできます。

体質代表的な食材主な働き
気虚やる気、元気といった、「気」の中でも体を動かすパワーが不足し、疲労回復ができない状態もち米、サツマイモ、山芋、かぼちゃなど、ホクホクした野菜
気滞気の中でも、感情を司る力をうまくコントロールできず、イライラが募っている状態柑橘類、みょうが、木の芽、ミント(ハーブ類)など、香りの良い食材
血虚血液不足。いわゆる貧血の状態ニンジン、ヒジキ、黒きくらげ、レバー、ほうれん草、クコの実など
瘀血(おけつ)血液の流れが滞り、コリが発生している状態。生理痛やシミ、そばかすなども瘀血が原因の一つとされる黒豆、紅麹、カカオ、ニラ、青魚、酢など
陰虚体内の水分が不足して熱の循環が滞ってしまっている状態。代表的な症状に更年期障害によるのぼせやほてりがある豆腐・トマト・山の芋(ネバネバする、生で食べられる芋)・白きくらげなど
痰湿脾(主に消化器系を指し、食べ物を吸収する働きをする)が弱く、水分代謝が悪くなり、むくみや重だるい疲れを感じている状態ハトムギ、とうもろこし、冬瓜やきゅうりなどウリ科の野菜

症状別にみる薬膳の活用ポイント

具体的にどのような症状のときに、どのような食材を選んで食べることで体調の改善が期待できるのかを季節ごとにご紹介します。

春の花粉症対策に

春になると花粉症がつらい、という方はとても多いですね。つらさの度合いは人それぞれですが、中でも鼻水の状態などによって、次のように大きく二つに分類することができます。

  • サラサラとした透明の鼻水が出て、寒気がする方
  • 粘りがあり、黄色味がかった濃い鼻水が出て熱っぽさを感じる方

先にご紹介した、サラサラとした鼻水が出るパターンの方は体が冷えているため、体を温める食材を取り入れる必要があります。

血行を促進して体を温める働きがある「辛味」「赤」食材からショウガ、また体を温め、体力をつける鶏肉と、アレルギーを鎮める働きがあり、胃腸にも優しい「甘味」食材のレンコンをコトコトと煮込んだスープがおすすめです。反対に、粘りがある鼻水で熱っぽさを感じる方は、体の中に熱がこもってしまっているので、体を温める働きがある食材を使うと逆効果になってしまいます。

そこで、体の熱を取る働きがある「鹹味」食材の中から春が旬のアサリを中心に、体の熱や老廃物を取り除く力がある「苦味」食材の菜の花を合わせて、さっぱりとした味に仕上げたスープや酒蒸しがおすすめです。

夏の暑気払いに

夏の暑い日、熱中症になりそうな時には、「甘味」食材のうち、体を冷やし、暑気あたりの解消にとても効果的な冬瓜がおすすめです。冬瓜はむくみを取りつつも、渇きを癒す働きがあるため、薄くスライスして、叩いた梅干しを加えて作る和え物は、熱中症の予防や脱水症状の改善にも最適です。

エアコンで体が冷えている時には、辛み食材の中から体を温める働きがある大葉とにんにく、ショウガを醤油で漬け込んだナムルも良いですね。

秋の乾燥予防に

秋の風は、私たちの体を冷やすとともに肌や肺、粘膜を乾燥させます。その結果、ウイルスを即座に洗い流すことができずに、風邪などの感染症にかかりやすくなります。体に潤いを与える働きがある「甘味」食材からナシや白きくらげを甘いシロップでさっと煮たコンポートなどが良いですね。

冬の冷え性改善に

冬になると、まず気になるのが、冷えではないでしょうか?入浴しても手足が冷たく、布団に入ってもなかなか寝付くことができない方も多くなりますね。

「甘味」食材の味噌や酒粕といった発酵食品や、鮭やラム肉が、体を温める作用を発揮してくれます。まだ本格的な冬が訪れる前には、適度に体を温める働きがあるニンジンや大根といった根野菜たっぷりの鮭のかす汁でに体を温め、冬の寒さに耐えられるよう、体調を整えていきます。

冬の寒さが本格的になった頃には、鮭よりもさらに体を温める働きが強いとされるラム肉を使って作った豚汁風の味噌汁がおすすめです。

食材を上手に選ぶことで季節の変化に対応しよう

薬膳の入門編ということで、食材が持つ性質や体調に合わせた食材の選び方についてご紹介しました。薬膳とは、生薬をたっぷりと使った食べにくい料理のことではありません。私たちの体調を整え「未病」を予防するために、食材が持つ力をいただくことを目的とした、日々の食事に取り入れやすい料理です。

四季のある国、日本では、今の気候に対応するだけでなく、次の季節に耐えうる体づくりをする必要があります。薬膳の力を借りることで、季節の移ろいの一歩先をとらえ、毎日を健康に過ごしてくださいね。

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