2023.10.21
2021年に「改正育児・介護休業法」が改正され、2022年4月以降、男性の育児休業取得を促進するための対応が義務化されました。
これにより男性育休の取得に対する認知度は高まっているものの、具体的な制度内容、育休取得によるメリット・デメリットなどを把握している人は少ないのではないでしょうか?
そこでこの記事では、男性の育児休業制度の概要、取得による企業や従業員のメリット・デメリットなどを解説します。
男性の育児休業は、配偶者による子の出産以降、男性が子育てのために休業を取得する制度です。子が1歳(一定の条件に該当する場合は、最長で2歳)に達するまで、申し出により取得することができます。
仕事と育児・介護の両立支援制度として育児・介護休業法が改正され、企業は、2022年4月以降、育児休業の取得対象となる男性従業員に対し、育児休業について個別周知を行うことを義務付けられました。
さらなる両立支援制度として、「産後パパ育休(出生児育児休業)」も設けられ、子の出生後8週間以内に4週間まで、2回に分割して育児休業を取得できることとなりました。なお、産後パパ育休取得時に労使協定を締結した場合は、労働者が合意した範囲で休業中の就業も可能となります。
育児・介護休業法は平成3(1991)年の成立後、平成21(2009)年(平成22(2010)年施行)の改正によって現在の制度内容となりました。
さらに、企業には育児休業の取得対象となる男性従業員に対する育児休業の個別周知や育児休業取得率の公表も義務付けられています。
こうした動きの背景について、男女共同参画局は、次のように示しています。
政府の社会保障国民会議最終報告(平成20(2008)年11月)で「男性(父親)の長 時間労働の是正や育児休業の取得促進などの働き方の見直しが必要。」と指摘されたこ とのほか、当時の現状認識として、次の点が挙げられている。
○勤労者世帯の過半数が共働き世帯となっているなかで、女性だけでなく男性も子育てができ、親子で過ごす時間を持つことの環境づくりが求められている。
○男性の約3割が育児休業を取りたいと考えているが、実際の取得率は1.56%。男性が子育てや家事に費やす時間も先進国中最低の水準。
○男性が子育てや家事に関わっておらず、その結果、女性に子育てや家事の負荷がかかりすぎていることが、女性の継続就業を困難にし、少子化の原因にもなっている。
こうした海外からの意見や国内の状況を鑑み、法の改正・整備が行われています。また、「令和7(2025)年までに男性の育休取得率を30%にする」という目標が政府により掲げられました。
厚生労働省の発表によると、男性育児休業の取得率は毎年伸び続けており、令和3(2021)年度は13.97%まで上がっています。ただし、諸外国と比較すると、この数値はまだまだ低いとされています。
内閣府の男女共同参画局のホームページには、比較可能な11か国(スロベニア、フィンランド、スウェーデン、デンマーク、スペイン、リトアニア、エストニア、アイルランド、ポーランド、オーストラリア及びハンガリー)の男性の育児休業の平均取得率が55%であるとする、ユニセフの専門研究センターの報告が示されています。
先述のとおり、日本政府も男性育児休業取得率を2025年までに30%としていましたが、このたび、2023年には目標を50%に引き上げました。しかし、現状はこの目標値には程遠いと言わざるを得ません。
男性の育児休業取得には、どのようなメリット・デメリットがあるのでしょうか?企業・従業員それぞれの立場から考えていきます。
まずは、男性の育児休業取得による企業にとってのメリットを紹介します。
育児休業を取得した従業員による職場への信頼感や安心感が高まり、エンゲージメントの維持・向上が期待できます。職場定着率が高まるほか、従業員の復職後の働き方やアウトプットの質の変化も望めるかもしれません。
男性の育児休業取得制度があること、その取得を促進していることを社外に広めることは、男性育休の取得率が低い日本においてはアピールポイントとなります。
さらに企業のイメージアップとなり、採用の応募が増えて優秀な人材の確保につながる可能性もあります。
厚生労働省では、男性の育児休業取得を促進している企業に対して助成金を交付しています。この制度により、企業は要件を満たす場合、1事業主あたり最大20~60万円の助成金を受け取ることができます。
また、東京都をはじめ、各自治体でも同様の制度を設けて男性の育児休業取得を支援しています。
次に、男性の育児休業取得による従業員にとってのメリットを紹介します。
育児に参加する時間が増え、生まれて間もない我が子との時間を育めることは、何よりのメリットと言えます。また、夫婦で協力して育児を行えるため、パートナーの負担軽減にもつながり、夫婦の絆がより深まりやすい期間となります。
育児を通じて知見が広がり、新たな気づきや発見が得られます。私生活においてのみならず、仕事において商品企画やプレゼンテーションなどのヒントを得るきっかけとなる場合もあるでしょう。
男性の育児休業取得には大きなメリットがある一方、デメリットとなることもあります。まずは、企業にとってのデメリットを紹介します。
さまざまな業種で人手不足が深刻化しているなか、男性従業員が育児休業を取得することによって、企業にはさらなる人手不足の懸念が生まれます。
そのため、企業は、継続的に人員を充足させておくこと、業務を属人化させないこと、育休取得者以外の社員へのケアといった対策を検討する必要があります。
次に、男性の育児休業取得による従業員にとってのデメリットを紹介します。
育児休業期間中は、企業が特例として給与を支払う制度を設けている場合を除き、原則無給です。そのため、家庭の収入減少はデメリットであると言えます。
ただし、国の給付制度や社会保険料の支払い免除などによって、収入の8割程度が保障されます。そのことを踏まえて、事前に家計の収支を見直しておくといった対策が考えられます。
仕事上で得られていた情報が休業によって遮断されてしまい、復職後の情報収集に苦労するといった懸念があります。
しかし昨今は、休業中にオンライン面談を実施したり、メールや社内のオンラインツールを使って定期的に情報共有をするケースも増えていますので、多くの場合、復職後もスムーズに業務遂行できるでしょう。
職場によっては、男性の育児休業取得に対する理解を得づらかったり、上司からの評価が下がってしまったりする懸念があります。
国による男性の育休取得促進とは逆行した考え・行動となるため、もし職場でこのようなケースに遭遇した場合は、例として、さらに上の職位となる社員にエスカレーションを行う(報告・相談する)といった対策が考えられます。
仕事と育児の両立、社会への男女共同参画、少子化対策などさまざまな理由から、企業は男性の育児休業取得をさらに促進する必要があります。
日本における男性育休の取得率を諸外国と同程度の水準にまで高めるためには、職場において育休取得者の仕事をカバーできる体制作り、風通しのよい組織作りが重要です。
また企業による体制・組織作りに限らず、従業員ひとりひとりが「お互いさま」の意識を持ち、支え合う環境・雰囲気を作る努力も必要です。
このほか、各企業が自社の状況に応じた制度を設けることも重要な対策となります。自社の育休取得に関する状況を把握し、問題がある場合はその改善策となる制度作り、育休を取得しやすい仕組み作りを行うことも欠かせません。
法改正によって、改正前と比較すると男性が育児休業を取得しやすくなりつつあります。
諸外国と同程度の水準を目標にすることも大事でしょう。しかし、まずは、育児は夫婦が協力して行うものであることを前提として、将来的に男性の育児休業取得が女性のものと同様に「当たり前」となる社会を目指すとよいのではないでしょうか。
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